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2006年11月9日
No.251

中間選挙と死刑判決

  1. アメリカの中間選挙で、下院では民主党が圧勝した。中間選挙というとなんとなくどうでもいいような選挙という印象があるが、下院の全議席が改選されるのだから日本でいえば総選挙に匹敵する。大統領制なので政権交代にはつながらないが、ブッシュ大統領にアメリカ国民がノーを突きつけたことには違いない。

    アメリカはいまもイラクで戦争をしているのである。戦闘は終ったが、武装勢力との戦いは続いている。アメリカ軍がイラクから撤退すれば、イラクで樹立した現在の政権がどうなるか分からない。まだアメリカにとってのイラク戦争は続いているといえる。戦争中というは、どこの国でも愛国心は高揚し、団結するものである。

    にもかかわらず、2年前の大統領選挙でもケリー候補はブッシュ大統領に肉薄した。そして、今回の選挙で民主党は下院で圧勝した。いずれの選挙でもイラク問題が正面から取り上げられ、このような結果をアメリカ国民は出したのである。この点に関して、私はさすがアメリカだという気がする。同じような状況の中で、日本国民はこのような政治行動が果たしてできるだろうか? ハッキリいって、私はできないと思う。

    イラク戦争に小泉首相はいち早く全面的に協力すると表明した。イラク特措法もつくり、自衛隊をインド洋に派遣し後方支援をした。また人道支援ということでサマワに自衛隊を駐留させた。わが国は、イラク戦争にかなり深く関わった国の一つである。アメリカでブッシュ共和党が敗れたのは、イラク戦争そのものの大義が失われたこと(大量破壊兵器が見つからなかったこと)もその原因の一つとしてあると私は思う。開戦時、あれだけブッシュ大統領を支持したことに対する反省もあるのだろう。

    一方、これに与したわが国の行動について、自民党や公明党には反省とか批判があるのだろうか。もう自衛隊がサマワから撤退したのだからいいじゃないかといわんばかりのダンマリである。そして、国民もこれを許している。わが国の国民は、政治に対する批判を忘れたのだろうか。それとも批判能力を失ったのだろうか?

  2. 昭和天皇がご病気の時、一億総自粛という現象が起きた。何故そうしなければならないのか本当のところ分からないのに、皆そのように行動した。当時皇太子だった今上天皇が、異常な自粛は天皇も望んでいないので「自粛」を自粛するようにと発言したことにより、異常な自粛ムードは治まった。国民の側からここまで自粛する必要はないのでないかという声はほとんど起きなかった。そう思っている人は多かったのだが…。

    衆議院の選挙制度をめぐって国論が分かれた時、小選挙制に疑問を呈しただけで守旧派と呼ばれた。政治改革がテーマなのであるから、選挙制度をどうするかは関連はするが、政治改革=小選挙制ではないはずである。正面から堂々といえば納得してもらえるのだが、それをいう雰囲気がなくなってしまうのである。私は価値観が多様化する中で、なぜ政治的な価値だけ一つに絞ろうとするかと訴え、最高点で当選した。しかし、よほど度胸がないといえない雰囲気が強くあった。政治家も悪いが、国民にも責任があると思う。

    昨年の郵政解散の時なども似ている。郵政民営化に疑義を抱くことさえ、政治改革の時のように守旧派とみなされた。郵政民営化といえば改革派とみなされ、改革を支持するという国民はその人に投票した。私は薄気味が悪く、ヘドが出る思いだった。郵政民営化は、憲法21条2項の「通信の秘密は、これを侵してはならない」ということに直結する大問題なのだ。郵政解散というのだから郵便のことが関係ないはずがない。しかし、誰もこのことに触れようとしない。

    国民は、通信の秘密が守られることを強く望んでいる。通信の秘密は、思想・良心・信教の自由というもっとも根源的な基本的人権に密接に関係するきわめて大切な自由権である。国家公務員をして郵便物を配達するのは、通信の秘密を守るためである。いまのところこれ以外にいい方法は思い浮かばない。だから国家がやっているのである。世界中のほとんどの国が郵便事業を国営でやっているのは、それだけの理由があるからである。

    どんな問題にもタブーを設けてはならない。タブーを設けて思考や議論の対象にしないことは、悪い王や怪しげな祈祷師や巫女が昔からやってきたことだからである。タブーとは触れてはならないということである。タブーとは、確か原始的宗教の世界の概念と記憶している。そこで念のために広辞苑を開いてみた。

    タブー[taboo;tabu] (ポリネシア語のtabu,tapu 聖なるの意)超自然的な制裁によって社会的に禁止される特定の行為。広く、触れたり口に出したりしてはならないとされる物や事柄。

    近年、わが国の政治の世界ではまさにタブーが多くなっている。政教分離問題しかり。テロ対策しかり。日米安全保障条約しかり。「日米同盟」などという言葉は、つい10年前までは軽々には使われなかった。いや、使ってはならない言葉だった。福田首相の時は、全方位外交といった。これに対して、私の恩師・大平正芳首相は、西側陣営の一員として行動すると舵を切った。そして、ソ連のアフガニスタン侵略に抗議して、モスクワ・オリンピックに参加しないことを決定した。「スポーツと政治は別だという風潮は強いので、場合によってはスポーツ担当の文部大臣の首を出さなければならないと覚悟していた」と伊東正義氏(当時の官房長官)から聴いた。

  3. 数日前、イラクの特別法廷がサダム・フセイン前大統領などに対して死刑の判決を下した。イラクの法制度についてまったくの知識がない私である。従って、もう少し勉強してからこの問題について述べたいと思っている。この判決がアメリカの中間選挙の投票日直前になされたのはアメリカの意向がなかったとは思えない。大量破壊兵器があろうがなかろうが戦争を仕掛ける国だから、そのくらいのことは平気でやるだろう。アメリカは世界中からそう思われても仕方のない品性のない国に残念ながらなリ下がったのだ。これはブッシュ大統領の罪であろう。

    私が問題にしたいのは、サダム・フセイン前大統領などに対して死刑判決を下した特別裁判所の法的性格である。その根拠一体はどこにあるか、ということが知りたいのである。事後法であることは、間違いなかろう。イスラム法が支配するイラクという国で、事後法というものが認められるのかどうかは不明である。「目には目を、歯には歯を」というくらいしか、イスラム法について私は知らない。しかし、事後法が許されるとも聞いていない。

    フセイン大統領は、独裁政治の中で、多くの人々を陵虐してきたと私は思う。それをイラクの法で裁くことはできる。しかし、それはフセイン大統領の時代にもあった法でなければならない。そうでなければ、事後法ということになる。少なくとも近代的な法体系をもった国では事後法は禁止されているはずである。アメリカが自画自賛している新しい民主的なイラクで、事後法が許されていいはずがない。ここを調べてみたいのである。

    さて、ここで話は飛ぶ。加藤紘一さんが頑張っていた首相の靖国神社参拝の議論の時、当然のことながら極東軍事裁判や戦争犯罪人のことが問題になった。戦争犯罪人を罰したのは事後法であるということが、極東軍事裁判を無効とする人たちの最大の論拠だった。確かに、事後法は近代刑法が固く禁止していることである。しかし、極東軍事裁判は、刑法の世界の話ではないのである。ポツダム宣言には、次のような条項がある。

    「吾等は日本人を民族として奴隷化せんとしまた国民として滅亡せしめんとするの意図を有するものに非ざるも、吾等の俘虜を虐待する者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重なる処罰を加えらるべし」(10項)

    極東軍事裁判所は、この条項を根拠にして設置されたのである。わが国は、ポツダム宣言を受諾して降伏した。戦争という国家と国家の行為を終結するために、国家としてこれを受諾したのである。ポツダム宣言の各条項に、わが国は従わなければならなかったのである。憲法学者の芦部信喜教授は、ポツダム宣言は一種の休戦条約的なものだという。国家が結んだ条約にその国民が従わざる得ないことはままある。

    当不当は別として、戦争を終結させるために心ならずも不本意なことを認めなければならないことは仕方がない。ポツダム宣言を受諾しなければ、「(無条件降伏)以外の日本国の選択は、迅速かつ完全なる壊滅あるのみ」(同宣言13項)だったのであるから。現にポツダム宣言の受諾が遅れたために、広島・長崎に原爆が投下され何十万という人の命が奪われたのである。それが戦争というものである。だから、戦争は残酷であり、悲惨なのである。

    極東軍事裁判を無効とし、これを強く非難する論者が、サダム・フセイン前大統領に対して死刑判決が下されたことについて、どのような主張をするのか私は注目している。いまのところ賛否を含めて、これといった論には接していない。イラク戦争は、戦争そして戦争法規というものについていろいろと考えさせられることが多い。これについては、財界展望2004年3月号同2004年6月号などに書いておいたのでご覧いただきたい。

それでは、また。

白川勝彦

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