個人情報保護法に関する私の見解
個人情報保護法が今国会では継続審議にたったので、ちょっと時間的な余裕ができたので間をおいてしまいましたが、「新党・自由と希望」の代表メッセージに「コンピュータ管理法は時代錯誤」(http://www.liberty-hope.net/spch/index.html)として私の考え方の基本をとりあえずのべておきました。この点については、専門家の意見も聞いてもっともっと深めていくつもりです。
また、今日の毎日新聞インターネット版に以下のような私のコメント(http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/today/index.html)が載っておりました。記者が私のいわんとするところを、かなり正確かつコンパクトにまとめてくれたようです。ご一読いただき、この問題について関心をもっていただければ幸いです。
白川勝彦
2001-06-08
「日本中のコンピューターを政府が監視」
個人情報保護法案、白川元自治相に聞く
個人情報保護法案の今国会での成立が見送られる見通しとなった。今年3月に自民党を離党し、「新党・自由と希望」を結成した白川勝彦元自治相は、同法案制定の直接のきっかけとなった改正住民基本台帳法にもかかわった。同党は、「日本初のインターネット政党」をキャッチフレーズに掲げている。弁護士であり、IT社会の在り方に関心を寄せる白川氏に同法案の問題点を聞いた。(臺 宏士)
弁護士もわからない
--そもそもこの法案は、全国民に番号を付ける改正住民基本台帳法(改正住基法)の成立にあたり、旧与党3党が「3年以内の法制化を図る」ことで合意(1999年6月)したことが直接のきっかけです。
白川氏
自治相(96年11月〜97年9月)をやっていた時に、事務方が改正住基法案を検討していた(注:旧自治省は、97年6月に改正住基法の試案をまとめ、翌98年3月に閣議決定し、国会に提出)。運転免許証や社会保険など、国は各所管事務ごとに番号を持った個人情報のデータベースを持っていた。そんな中で、自治省も作りたいと言い出した。住民票が取りやすくなるぐらいで、莫大なカネのかかるネットワークをつくる必要があるのか。無駄なネットワークになりはしないか。他省庁(のネットワークとも)ともすり合わせする必要性などを事務方に言った。その際、個人情報の保護が重要なことも述べた。しかし、正直言って、その後の関心は余りなかった。
--5月10日にノンフィクション作家らが開いた政府の立法担当者との公開討論会に参加していましたが。
白川氏
知り合いのフリージャーナリストから、個人情報保護法案には大いに問題点があると指摘された。この2カ月間、この法案について考えてきたが、確かに言論を統制することになるだろう。しかし、問題点はジャーナリズムだけに限られていない。
何度もこの法案を読んだが、弁護士を20年やっている人間から見ても、非常に分かりにくい内容だ。そもそも、だれが個人情報取扱事業者に該当するのかさえ、よく分からない。討論会で、藤井昭夫・個人情報保護担当室長に「(現職でない私は)後援者のデータを10数万件持っている。個人情報取扱業者に当たるのか」と質問したら、口ごもっていた。
とにかく、国民からみても、個人情報取扱事業者になるのかならないのか、よく分からない。免許制でもないのに、ある日突然、事業者になり、ある大臣の監督下に置かれてしまう。こんな乱暴な法律はないのではないか。個人情報取扱事業者に対して、罰則規定はあるが、まず、どういう行為が処罰されるのか、不明確だ。罪刑法定主義の原則に違反している。
報道、表現の自由を圧迫
白川氏
例えば、汚職の疑いのある政治家がメディアの取材や逮捕を逃れるため、健康でぴんぴんしているにもかかわらず、病院に逃げ込むことはよくある。病院は、患者情報をコンピューターで管理し、法案にある「個人情報取扱事業者」にあたるとする。新聞記者は、病室内の様子を聞き出したいわけで、看護婦を通じて情報を入手したとする。警察・検察は、看護婦が個人情報を漏らし、法律に違反した疑いがあるとしてコンピューターを差し押さえようとする。しかも、警察は関連情報でなく、一緒に他の病院の情報も持っていく。嫌疑があるというだけで、差し押さえ令状を取れる恐れがある。
個人レベルでも、数千単位の個人情報をコンピューターで管理している時代だ。日本中のコンピューターが規制を受ける事態になりかねない。この法案は、ジャーナリズムをはじめ、言論や表現の自由が封殺されるということにとどまらない。本来最も自由であるべきインターネットの世界をも制約することになるだろう。
新たな天下り先を生む
--国家公安委員長の経験者として、警察はこの法律をどう使うことになると思いますか。
白川氏
私は官僚の性(さが)をよく知っている。この法律は権益拡大のために利用されることになるだろう。ある程度の個人情報データベースを持っていて、警察に踏み込んでもらいたくない個人情報取扱事業者は、警察OBを天下りとして受け入れるに違いない。警察OBの受け入れは、取り締まり対象(の企業)などにとって、「うちには警察OBがいる」とアピールすることで、(強制捜査などから)ガードしてもらう狙いがある。また、警察だけでなく、コンピューターを持つ企業は、所管省庁OBを受け入れるだろう。
この法律によって、警察は何ができるかということを考えてみたい。日本中のコンピューターが警察の管理下に置かれる可能性がある、すごい野望と意欲に満ちた法律だ、ということだ。官僚は、本音と建て前を使い分けて法律を書くことがある。この法案もその一つだ。
--個人情報保護はどういう法制度であるべきでしょうか。
白川氏
官は権力に基づいて膨大な個人情報を集めている。現状でも、漏らした場合は、国家公務員法、地方公務員法などで処罰されるが、個人情報を大量に漏らした場合は、より厳しい処罰を加えるべきだ。また、電気通信、医療、ガスなど国民が生活するために必ず契約せざるをえない生活インフラ関連の許認可をもらっているような民間事業者には、個人情報の保護をきちっとやってもらわないといけないだろう。
【略歴】
前衆議院議員。1945年6月22日生まれ。東大法学部卒。79年衆院初当選。当選6回。国家公安委員長。弁護士。00年6月の衆院選新潟6区で民主党候補に敗れる。自民党を離党し、今年3月に「新党・自由と希望」を結成。近著に「自民党を倒せば日本は良くなる」(アスキー刊)
[白川勝彦氏のウェブサイト]
http://www.liberal-shirakawa.net/index.html
[個人情報保護法案]
http://www.mainichi.co.jp/digital/houan/01.html |