3 「本来あるべき政権担当能力とは」 私は、平成八年十一月に第二次橋本内閣で、自治大臣・国家公安委員長に任命されたことがあります。私は、地方行政の経験もなければ、自治省関係や国家公安委員会関係のことをやる国会の委員会や党の部会に属したことが実はまったくありませんでした。ですから、その方面の知識はほとんどなかったのです。 私としては、それなりの知識のある別の大臣を希望していたし、その大臣になるんじゃないかと思っていました。ところが、橋本首相されたのは、自治大臣・国家公安委員長だったのです。 そのとき、一番最初に私のところに飛んできたのが、自治省の官房長と警察庁の官房長でした。そして、私に最初の記者会見用のペーパーを手渡し、「これをお読みください」と言うわけです。 本来であれば、自民党として自治省はどうあるべきか、警察庁はどうあるべきかという、党としての政策があって、それを党のスタッフが大臣に任命された者と思うのですが、そういうことは全くありませんでした。党としては、何も考えていないということです。 官僚が作ったペーパーにしても、それがいいものだったら、私もそのまま読んだかもしれません。しかし、どう考えても、それは十年前の自治大臣もこれを読んだだろうと思えるしろものでした。私の番が回ってくる数十分の間に、自治省と警察庁の設置法を見ながら、原稿を全部自分で書き直して記者会見に臨みました。 その後の国会答弁にしても同じようなもので、やはり大臣の答弁は官僚が書きます。しかし、私は原則、自分の言葉で喋りました。 このことをしたからといって、自分が偉いなどと言うつもりは全くありません。自分の言葉で喋ることが偉いとか偉くないという問題ではなくて、私が言いたいのは、役所をコントロールすべき大臣がその役所をどうしたいという意欲や能力がなければ、それは政権担当能力とは言わないのではないかということです。 つまり、官僚の振付けどおりに踊れる人というのは、政権担当能力があるということではなくて、歌舞伎役者の子供がほかの子供よりも、歌舞伎の真似事をするのが上手いのと同じ話だということです。 官僚について よく、日本の官僚は優秀だといわれます。 確かに、戦後の日本の発展を実質的にリードしてきたのは官僚なわけですから、それなりに優秀なのでしょう。しかし、同時に官僚は傲慢であり、不遜です。なぜなら、政権は官僚のものではないにもかかわらず、自分たちのものにしようとしているからです。 公務員の任免権は国民にあることになっていますが、それは有名無実もいいところです。現状においては、行政を担う公務員のうち、内閣や地方自治体の首長については選挙によって選ばれますが、その下の官僚組織は、雨が降ろうが槍が降ろうが全く関係なく、百年一日の如く、自分たちだけは安泰だと思っていますし、安泰であろうとしているのです。 まさに日本は官僚国家であり、この根本を崩さない限り、真の民主主義国家になることはできませんし、行政改革も決して進まないのです。 さらに、官僚が優秀であるということそれ自体も、今や間違いであると言える時代になりました。なぜなら、新しい時代の課題を自ら感じ取り、自己改革・自己革新する能力が、官僚にはないからです。そんな官僚組織を優秀・有能と呼ぶことはできません。この世は、生々流転、諸行無常なのですから……。 大臣の権限について こうした傲慢で不遜な官僚をコントロールするのが、本来大臣たる者の役割です。ところが、前述したように、自民党の多くの大臣は官僚の振付けどおりに踊っているだけなのです。私も、そうした一人だったといわれても仕方はありません。 しかし、大臣はその役所のトップなわけですから、やる気さえあれば官僚をコントロールすることはできるのです。実際、私は自治大臣・国家公安委員長時代に、いくつかのことを決断し、実行しました。 例えば、自治省の役人の地方自治体への連続出向の禁止です。それまでは、地方自治体のあるポストを自治省からの出向者が歴任し、そのポストが事実上、自治省ポストとして固定してしてしまっているケースが多々ありました。 この問題を、国会で野党議員から指摘され、私自身もこれは地方分権に反すると思いましたので、答弁の中で「わかりました。自治省が連続して同じポストに出向させることはもうやめさせます」と答えたのです。そして、役所に戻って事務次官を呼び、「今日、国会でこういう答弁をしてきたから、この通りやって下さい。」と申し渡しました。 自治省にとっては、まさに青天の霹靂だったと思います。しかし、大臣であれば、これくらいのことは簡単にできるのです。それくらい大臣というのは、絶対的な権限を持っているわけで、その権限を行使せずに、いまだに官僚に踊らされている自民党に、政権担当能力などないことは明白だといえるでしょう。 |
白川勝彦OFFICE
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