あの日から5年 ── その日の私は(1)
16年03月11日
No.1815
あの日の午後、私は、少し遅い昼食をとりに行った。そこは、近所の立ち食いそば屋であった。私が食券を買おうと券売機におカネを入れようとしたその時、ちょっとおかしな感じがした。目まいでも起きたのか、と思った。私は、血圧が少し高めなのだ。血圧を下げる薬を、お医者さんからもらっている。そもそも、そばは大好きだが、そのせいもあって、出来るだけそばを食べるようにしているのだ。
おかしいと思って、店内を見回した。そうしたら、その店のパートのおばさんも、同じような様子で私を見た。しかし、ドシンとするような揺れはなかった。だから、そのそば屋を跳び出したというわけではないが、私は、券売機から1メートルもない日比谷道路の歩道に出た。日比谷通りは、都内の幹線道路で、出たところには信号機がある。その信号機が、大きく揺れていた。ガチャンガチャンと、音がする。「これは、目まいではない、地震だ」と、私は認識した。
私がいたそば屋から、客たちが道路に出てきた。日比谷道りだから、周りは全部ビルである。それらのビルからも、一斉に人々が出てきた。かなり広い歩道だが、あっという間に人だかりができた。皆、いろいろなことと話している。だが、何が起こったのか、誰もが、よく分からなかったようだ。ただ、どこかで地震が起きたのが間違いないことだけは、分かった。しかし、腹が減っては戦は出来ぬ。そば屋の隣の牛丼屋に入って、私は牛丼を頼んだ。注文した牛丼は直ぐに出てきたので、それを食べた。
牛丼を食べるのに、時間はかからなかった。その段階では、地震がどこで起こったのか、ほとんど分からなかった。私は、白川勝彦法律事務所に帰るのが先決だと思った。事務所の隣に、コンビニがある。私はそこに入って、弁当10個くらいと、パンやインスタントラーメンなどを買った。どうなるか分からないが、用意していた方が良いと思ったのだ。コンビニの状態は、まだ普段通りだったので、それらを買うのに苦労は要らなかった。
事務所に帰ると、事務所は大騒ぎをしていた。相当に揺れたらしい。しかし、事件記録がいっぱい入っている書棚は倒れていなかったし、事務所の事務機器や備品に影響はなく、もちろん、職員にも、怪我などはなかった。私の部屋にあるテレビで、何が起こったのか、まず確認しようと思った。テレビは、普通に映った。職員は、東北地方でかなり大きな地震が起こったことを、テレビやインターネットでもう知っていた。東京では、身の危険がないだろうということも、もう分かっていたようだ。
私は、何が起こったのか、全容を知りたかった。テレビはどこも、このニュースばかりだ。職員にも「見ても良い」といったのだが、全員がテレビの前に来たわけではなかった。最近の若い者は、インターネットで情報を集めるのが得意だ。テレビも、インターネットで見られるようだ。少しテレビを見ている間に分ったのは、震源地が仙台沖数十キロで、マグニチュード9前後ということだった。大規模な地震なのは、間違いない。これは、相当な被害を覚悟しなければならないと、私は思った。
仙台市における地震発生直後の模様が、生々しく報道された。私は、マグニチュード9なのだから仕方がないと思った。そうこうする内に、津波情報がテレビの右端に映し出されるようになった。仙台市付近の海岸で、数十センチとか1メートルなどのいうものであった。意外に小さい津波なんだなぁ、と私は思った。そうこうしているうちに、九十九里で10メートルという表示があった。“えっ”と感じたのは、この時だ。それは、なぜ、九十九里で10メートルなのか、という驚きであった。
私が驚いたのには、もうひとつの理由もあった。女性職員の一人が、九十九里出身であるからだ。実家はそこにあり、お祖母様とお母上が、そこに住んでおられるのである。私はその職員を呼び、「九十九里浜に、10メートルの津波が来ると報道されているよ」と伝えた。これは、関東でも身の危険が迫っていることを意味する。遠い処での地震じゃない、ということだ。
<つづく>
補足
今日、白川勝彦法律事務所でこのつづきを書き上げたのだが、それは事務所で使っているパソコンに入っている。念のため、そのパソコンを自宅に持ってきたのだが、どうしてもアップ出来なくて、困っている。明日も事務所に行くので、それまで続きは、お待ち頂きたい。
その中で私がいちばん言いたかったのは、昨日のTBSのNEWS23の原発特集が、非常に良かったことである。稀に見る、秀逸な番組であった。これを見れば、「仮に万一原発事故が起きても大丈夫だ」なんて、いったい誰が言えるのだろうか。大津地方裁判所が出した関西電力高浜原子力発電所3・4号機の運転差し止め仮処分決定の妥当性は、明らかなのではないか。この番組は、誰かがYouTubeにアップするだろうから、大いに拡散して欲しい。<3月11日午後7時5分記す>