波間道あり、道縦横。
07年04月23日
No.404
統一地方選挙の後半戦の投開票が行われた。また参議院補欠選挙では、福島県選挙区では民主党公認の候補が当選し、沖縄県選挙区では自民党・公明党の推薦する候補が当選した。まず参議院補欠選挙について述べる。両県とも知事選挙に転出した参議院議員の欠員を決める補欠選挙であった。結果は、その知事選挙で勝った陣営が参議院補欠選挙でも勝利した。知事選挙の選挙態勢が上手く動いたのではないか。
そうみると与党と野党の1勝1敗の痛み分けというよりも、知事選挙の結果がそのまま出たということではないだろうか。敗因を求めるとしたら知事選挙まで遡る必要がある。しかし、両県の伝統的な政治の流れを知っている者には、複雑な思いがする。福島県は、伝統的に自民党が強い県だった。だが自民党が強すぎたために一部が新進党→民主党に移行した経緯がある。一昨年の総選挙でも5選挙区のうち2選挙区で民主党候補が小選挙区で当選している。知事選挙の原因が元自民党参議院議員であった佐藤栄佐久知事の汚職であったために、野党の知事候補が当選したのはある面では自然な流れであった。それから半年しか経っていない。その流れがそのまま民主党候補を参議院補欠選挙でも当選させたのでないだろうか。
沖縄県は、伝統的に自民党が弱い県であった。私が総務局長を務めた平成8年の総選挙では、3つの選挙区のうちまともな候補者を立てることができたのは沖縄1区だけであり、沖縄2区では候補者が最後まで決まらず結局党職員を立候補させた。沖縄3区では比例区で特別に処遇することを条件にやっと候補者が出たくらいであった。参議院選挙でもだいたい野党が勝っていた。沖縄県のこうした政治情勢が大きく変わったのは、自民党が公明党と共同して知事選挙に勝ってからである。稲嶺知事の出現である。このころから自民党は連戦連敗から徐々に逃れることができるようになった。それでも野党はかなり強かった。郵政解散選挙でも自民党・公明党は4選挙区のうち2選挙区でしか勝っていない。
両県の今回の選挙結果をみると、知事という存在が各種の選挙で大きな意味をもっているということである。都道府県がもっている権力は、国の権力に匹敵する大きな影響力をもっているのである。そのことをまず指摘しておきたい。もうひとつは、候補者の選定である。私は郵政解散選挙のとき半月間沖縄1区に張り付いて、公明党の公認候補と対決した下地幹郎氏を応援した。そんな関係で沖縄には多くの知人ができたのだが、彼らに選挙情勢を訊くと野党候補は補欠選挙では厳しいが本選挙では勝てるでしょう、と多くの人が答えるのである。沖縄県で与党の推薦した候補は、選挙を多少知っている者からみると俗にいう“良い玉”なのである。選挙態勢は五分と五分だったと思うが、“玉”の良し悪しがこの選挙の明暗を分けたと思えるのである。
福島県では民主党候補が圧勝した。私は増子輝彦氏が県議会議員のときから知っている。昭和58年佐藤栄佐久前知事が参議院選挙に初当選したとき私は応援に行ったのだが、そのとき私の前の応援演説をしたのが増子県議会議員であった。“非常に演説の上手い人だなぁー”と感心した。案の定、その数回後の衆議院選挙で増子氏は旧福島1区から当選してきた。自民党が野党だった平成6年、増子氏は自民党を離党した。その後彼が立候補した福島2区には自民党の強い候補がいたために小選挙区では当選していないが、なかなかの“玉”であることだけは確かである。自民党候補に20万票もの大差をつけての当選は、そのことによるものだと思う。選挙は政党も大きな要素だが、候補者個人のもつ“候補者力”もやはり重要な要素なのである。
統一地方選挙の方は、自民党と公明党の推薦を受けた首長(特に現職)が、圧倒的に強かった。開票速報をみていると憂鬱になったくらいである。候補者はどうしてこうも自公にこだわるのか。自公は、どうして首長にこだわるのか。かつて首長選挙では、首長候補はそんなに政党色を出さなかったような気がする。衆議院選挙が小選挙区制になったからであろう。そうだとすると野党もこれからは首長選挙などに候補者を出さなければならないのではないか。これは口でいうほどやさしいことではない。地域社会にしっかりと根を張った候補者を得るということは意外に難しいのである。
その重要なヒントは、今回圧倒的に強かった自公推薦候補(特に現職)に勝った首長をみることである。首長選挙では、変な風は吹かない。住民はシッカリと候補者を見極めて投票するのである。しかし、それにしても当選した首長の当選の弁は、みな紋切り型だった。どこでも財政再建・行政改革・福祉の充実・子育て支援・安心安全などであった。地方自治がそこまで追い込まれている証左であろう。こんなことでどうして個性と魅力ある地方都市が作れるのであろうか。小泉首相の“三位一体の改革”なるものが、地方自治を発展させるものでなかったことだけは確かであろう。
全国の首長選挙や地方議会選挙を一括りにいうことはできない。しかし、一つひとつの選挙結果をみると、そこには確かにいえることがあるような気がする。有権者は決して気紛れでは投票をしていない。“波間道あり、道縦横”である。波は寄せては引いていく。引いてまた新しい波が寄せてくる。波は留まるところはない。波には動いている。だがこのように揺れ動く波と波の間をシッカリとみると、一本道ではないが確かな道がある。こんな意味である。大平正芳総理がよく使った言葉である。その道がなんであるかを、私たちは真剣に考えなければならない。それを見極めたとき、道は開ける。
それでは、また明日。