日本は、なんでもかんでもアメリカに強く影響される国である。私は生まれてこのかた、株というものを買ったことがない。しかし、株式市場の動向は毎日チックしている。株式投資をやっている人は、経済紙や専門雑誌などを検討して株の売買をしているのであろう。でも門外漢の私にいわせれば、アメリカの株価が上がれば翌日の日本の株価はだいたい上がっている。アメリカの株価が下がれば、翌日の日本の株価は下がっている。基本的にはそういう動向である。この基本的な傾向に一つふたつの例外の方程式を考えれば、あまり損はしないのではないか。それほど、アメリカ市場に連動している。
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政治もそうである。アメリカでネオコン(ネオ・コンサーバティブ=新保守主義)が強くなってくると日本の保守反動グループが急に元気づく。2001年の9・11テロ事件以後、アメリカの外交・防衛政策は完全にネオコンが指導した。そして、アフガニスタン、イラクへの武力攻撃が実行された。また、アメリカ国内ではマッカーシズムの再来のようなイスラム教徒に対する迫害が行なわれた。私たちが素朴に信じていた自由な国―アメリカでは考えられないような人権侵害が行なわれている。
レーガン大統領の時もそうであったが、アメリカで新保守主義が台頭すると日本の保守反動グループが元気づく。レーガンの時の相方は、中曽根首相であった。そしてブッシュ大統領の相方が、現在のわが小泉首相である。
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レーガン大統領自身は、映画俳優上がりで政治哲学や理論的なものなどあまりない大統領であった。しかし、レーガン側近グループには相当の理論家がいた。そして停滞していたアメリカ経済を再生させた。また中曽根首相もそれなりの政治家だった。不沈空母発言などかなりタカ派的な発言にみられるように問題もあったが、国鉄分割民営化と電電公社の民営化という大きな実績を残したことは確かである。
それに比べて、ブッシュ大統領には政治哲学など何もないし、ブッシュ政治を実際に動かしているネオコンと呼ばれるグループには、かなり問題のある人物がかなりいる。小泉首相も同じである。この人は、旧大蔵省(現財務省・金融庁)の役人のいうことが一番正しいと信じている政治家なのである。郵政族や道路族と戦う改革派とマスコミは持ち上げているが、小泉首相も恥も外聞もない典型的な大蔵族・銀行族なのである。
そして、総理大臣になってまだ族議員の意識・感覚にまったく変化がない。こんなに成長や進歩のない総理大臣は珍しい。そして、首相になってからは、アメリカのいうことにはなんでも忠実に従おうと決めた政治家である。それは、楽なことであるし、自分の政治的立場を守るには好都合であろうが、日本の利益になるかどうかは全く別である。
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ブッシュ大統領がやったことといえば、アフガニスタン攻撃とイラク攻撃だけである。しかし、武力攻撃(両者とも戦時国際法などを踏まえた「戦争」ではない。WARではなく、ATTACKに過ぎない)の最大の口実であったビン・ラディンも大量破壊兵器もいまだ見つかっていない。内政もこれに関連することだけであり、それ以外に何か成果を上げた政策があるなどということは寡聞にしてこれを知ることはできない。戦争屋というイメージがピッタリとする大統領である。世界で最大の軍事力をもつアメリカの最高指導者が好戦的な人物だとしたら、世界は落ち着いて眠ることもできない。
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イギリスのブレア首相は、イラク攻撃に参加したために支持率が極端に落ちてしまい、次の総選挙で再選を果たすことは難しいといわれている。アメリカの大統領選挙は来年だが、ブッシュ大統領の最大のアキレス腱はイラク攻撃になると私は思う。
戦争中は大統領を支持するが、戦争が終ると冷静な判断をするのがアメリカ国民なのである。アメリカの兵士は勇敢であるが、彼らは自由を守り独裁と戦うという大義名分を非常に大切にする。
そのような大義名分がない戦いには、アメリカの兵士は必ずしもその能力を発揮しない。それがベトナム戦争であった。アメリカの兵士は、自由な国の兵士なのである。独裁国家の兵士とは違うのである。そう遠くない内にイラク駐留のアメリカ軍は厭戦的になるであろう。またアメリカ国内に反戦的な運動が起こるであろう。
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いつの時代でも、どのような社会でも、戦争は人権を抑圧し、諸国民を犠牲にする野蛮な行為である。アメリカは、イラク攻撃によってイラクに自由をもたらしたと自画自賛している。しかし、外国からしかも武力によってもたらされた自由が果たしてイラク国民を本当に幸福にするかどうかは疑問である。アメリカの自由の輸出は、かつてのソ連などの社会主義の輸出とどこが違うのだろうか。ある国の体制の変革は、やはりその国の国民によってなされなければならない。それ以外に本当にその国の体制を変え、国民を幸福にする道はない。いかに優れた主義・体制であっても、武力による押し付けはやってはならないのである。
北朝鮮の体制を変えなければ、北朝鮮の国民が自由を得、幸福になることはないと私は思っている。しかし、だからといって外国が武力によって体制を変えることが許されていいはずがない。北朝鮮の拉致問題に絡んで、「レジーム・チェンジ」の必要があるなどといった過激な言葉が一部の反動的な政治家や評論家の口から出ている。内政不干渉は、現代の国際関係の基本だと思う。いやしくも政治家が特定の国をさして「レジーム・チェンジ=体制転換」などという言葉を不用意に使ってはならないと私は考える。
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ブッシュ大統領のネオコンと呼ばれる側近グループは、自由のためならばレジーム・チェンジを武力によって行なうことが許されると考えているようである。そして、単にそう考えているだけでなくブッシュ大統領にそれを実行させたのがイラク攻撃なのである。これは、「自由という名の帝国主義」といってもいいであろう。社会主義を武力で輸出しようとしたかつてのソ連と基本的には同じ発想である。
わが小泉首相は、一も二もなくこれに賛成した。そして、ここに自衛隊を派遣し、1600億円あまりの税金を投入することを決めた。小泉氏には、アメリカの「自由という名の帝国主義」に加担しているなどという認識は全くないのであろう。単にアメリカにいわれたからやっているだけと軽く考えていると思う。彼にはおよそ物事を理論的・哲学的に考える資質など全くないのである。おそろしい程の知性の欠如した政治家なのである。しかし、わが国の外交や運営には、政治の基本哲学は、やはり必要なのである。
少なくとも、わが国を帝国主義の国にしてはならない。この一点だけでも小泉内閣は打倒しなければならない。