来るべき総選挙の日程が事実上確定した。10月10日解散。10月28日公示、11月9日投票。あと、一ヶ月と4日である。
今回の総選挙の最大の意義と特徴は、わが国において初めて政権交代の是非を賭けて与野党が激しく戦うということである。小選挙区制を導入したのは、政権選択を行なえるようにすることに最大の眼目があった。そして、今回が3回目の総選挙になるわけである。
新しい小選挙区制の下、最初に行なわれた総選挙は、平成8年10月であった。この時は自民党と新進党が政権をかけて戦った。最初の内は、多くの人々が新進党が選挙に勝って政権を取るであろうと予想したが、結果は自民党が新進党に大差をつけて勝ち、改めて政権党となった。この総選挙において、私は自民党の選挙の実務上の責任者である総務局長として、その指揮をとった。
総務局長に就任したのは、前年の10月であった。毎月選挙予測をしたが、最初のうちは何度行なっても自民党に勝ち目はなかった。しかし、平成10年の6~7月に行なった予測で、やっと新進党にかなりの差をつけて勝つ確かな見込みが出てきた。
私が橋本首相と加藤幹事長に私の選挙予測を伝えたのは6月末であったが、二人とも「白川、本当に勝てるのか」ということであった。
「総理と幹事長に、いま総選挙をやったら、自民党がいくつの議席をとれるかお示しするのが私の仕事です。私の予測は、誰の予測よりも正確だと確信しております。私は、私のすべてをかけてこの予測をしているのです」
これが私の答えてあった。これを境に橋本総理と加藤幹事長が総選挙態勢に入ったことを私は肌で感じた。10月20日行なわれた総選挙で、自民党は245議席を獲得した。
なぜ、この選挙において自民党が勝てたか。それは、野党が分裂して選挙戦に臨んでくれたからである。最初の内こそ、前年に行なわれた参議院選挙で大きく躍進した(比例区は、トップであった)新進党に勢いがあった。また、有力な候補者が続々と集まった。
しかし、自社さ政権だったこともあり、すべての党が新進党に結集せず、鳩山・菅共同代表の民主党・社会民主党・さきがけ・共産党としてそれぞれ別個に選挙に臨んだ。有権者から見れば、自民党という政権党に対し、野党が5党に分裂して戦っていると感じられたのだと思う。これでは、政権交代といくら叫んでも、本気で政権を取る気があるのかと思われても仕方ないだろう。
次の総選挙は、平成12年であった。この時、与党側は、自民党・公明党・保守党であった。この3党は、選挙協力をして事実上一つの政党として選挙戦に臨んだ。
これに対し野党側は、民主党・自由党・社会民主党・共産党に分かれて選挙戦を戦った。野党間の選挙協力はほとんどなかった。また政権交代を強く訴える状況や雰囲気もなかった。これでは、与党側が勝つのは当然である。そして、6月25日に行なわれた総選挙で与党3党は、480議席のうち271議席をとって圧勝した。
この2回の総選挙の特徴は、与党側があらゆる努力をして300の小選挙区に一人の候補者しか立候補させていないのに、野党側は分裂して戦っているということである。与党側が分裂選挙を避けるためにあらゆる努力をしているのに、野党側には選挙協力がほとんどないである。
冒頭、私は「今回の総選挙の最大の特徴は、わが国において初めて政権交代の是非を賭けて与野党が激しく戦うということである」と述べた。 これは、少なくとも過去2回の総選挙において、野党側が政権を獲得すべく党の合併や選挙協力をして選挙戦に臨んでいなかったことをまず確認しておきたかったからである。
しかし、今回は過去2回と明らかに異なる。民主党と自由党は合併した。新しい民主党と社会民主党は、完璧とはいえないが、基本的には協力して政権交代を目指そうという良好な雰囲気があり、若干の例外はあるもののほとんどの選挙区で選挙協力が進んでいる。
その結果、300の小選挙区のうち、ほとんどの選挙区で共産党を別にして、政権交代という旗を掲げて戦う候補者は一人という状況になっている。これは、過去2回とは明らかに違う特徴である。そして、このことは選挙を知っている者に言わせれば、極めて重大なことなのである。
平成8年の総選挙で自民党が勝てたのは、決して自民党が強かったからではないのである。野党(民主党の多くの議員・社会民主党・さきがけは、自社さ政権の与党であったが、当事者も国民の多くも野党としての捉える雰囲気が強かった。少なくとも自公保政権の公明党や保守党とは明らかに異なる)が、バラバラに分裂して戦ってくれたから自民党は勝てたのである。私は党本部で300の小選挙区の選挙情勢を誰よりも知っている者として、確実にこう断言できる。
今度の総選挙は、過去2回とは明らかに異なる。野党は各選挙区で勝つべく、自由党は民主党に合流し、かつ新しい民主党と社会民主党は真剣に選挙協力を行なっている。一方、自民党系の候補者が分裂している選挙区が相当数ある。少なくとも、野党側が勝つ必要条件は確実に整っている。
あとは、過半数の議席をための十分条件を早急に整えることである。この点についても、希望的状況が着実に生まれつつある。
小泉首相の支持率は高いが、小泉内閣の政策については多くの国民に強い不満があり、それが限界状況に達しつつある。
野党第一党の民主党が、具体的な政権公約(マニフェスト)を提示しているにもかかわらず、小泉首相はこの深刻なデフレ不況を克服するために直接関係ない「郵政民営化」と「道路公団の民営化」を象徴的な公約としている。
イラク特措法が成立し、総選挙後、イラクへ自衛隊を派遣することが明らかであること。あまりにもアメリカに追随的な外交に対して、国民の間には強い拒否感が生じている。
自らが抵抗勢力と呼ぶ古い自民党勢力の支持を得て再選を果たした小泉首相の改革姿勢に、国民が不信感をもち始めていること。これを隠蔽するために安倍幹事長の起用をはじめとする一連のパフォーマンスをしているが、「パフォーマンスはもういい」という雰囲気が国民の中に明らかにでていること。
300の小選挙区に立候補している候補者は、旧態依然とした古い自民党体質の候補が多いこと。
このように、政権交代のための条件は十分とはいえないが確実に整いつつある。選挙戦が始まればすべての報道が、「政権交代、是か非か」の一点に国民の関心を集中させる。その結果、小泉改革の実態をもう一度冷静に評価することになる。
その実態が、これまでのどの政権もしたことがないほど冷酷な「弱者切り捨て・地方切り捨て・中小企業つぶし」の内閣であるだけに、国民の多くがこれまでの小泉内閣への評価を変えて投票する可能性が極めて高いと私は予想する。その結果、いまこの時点で多くの国民が考えている状況とは明らかに異なる投票行動をすると確信する。
いま野党にとって一番大切なことは、悲観もせず、楽観もせず、自信と気迫をもって政権交代を国民に訴えることである。