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ごごばん! デイリースペシャル 〜法律クリニック〜 2012年6月26日 火曜日 (第70回)
テーマ
「失踪中の兄弟がいる場合の、遺産相続手続きを教えて下さい」
話者名 | 話の内容 |
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上柳 | 毎週火曜日この時間は、「ごごばん! 法律クリニック」です。ラジオの前の、あなたの法律の問題についてお話を伺います。スタジオには、白川勝彦法律事務所所長、弁護士歴40年の白川勝彦弁護士です。今週も、宜しくお願いします。 |
白川 | 宜しくどうぞ、お願い致します。 |
増山 | 宜しくお願いします。 |
話者名 | 話の内容 |
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上柳 | では早速、今日も相談内容です。ヒロミさん、40歳の女性からのメールです。 |
増山 | 先日、父親が亡くなりました。私は三人兄弟なので、父の残した遺産1500万円を分配したいと考えているのですが、二番目の兄が、かなり前から連絡が取れない状況で、困っています。こういう場合、どのような手続きをすればよいでしょうか。 |
上柳 | 遺産をめぐっての様々というのは、小説ドラマの世界ではよくありますけど、お兄さんと連絡が取れない …… 分配は、どうしますかね。 |
白川 | かなり前から連絡が取れない …… そのくらいじゃダメなんだけど、現実にはこのご家族 ─ ヒロミさんの場合ですが、500万円が現金なら別だけども。 例えば、銀行預金であったりした場合、どうにもできないんです。今は、銀行もちゃんと手続きは … 相続上大丈夫ですかと、確認しないと払ってくれませんから。 前にも話したと思うんですが、遺産相続というのは、相続人全員が話し合って、協議書を作って、はじめて分配できるんですね。それが無い限り、銀行は払い戻してくれません。 法定相続分だと、3人 ─ 子供3人だったら、3分の1ずつということで。3分の1ずつ、お兄さんとヒロミさんがもらって、残りを所在不明の方のために銀行に預けておこうとしたところで、それも、銀行は扱ってくれないです。だって、遺産についての協議が整ってないですから。だから、人がいないと困ることがあるんです。 どういう時に困った問題が起きるかというと、一つは、婚姻関係。それから、相続なんです。良い悪いは別として、人がいないことには先に進められないんですね。そういう時のために、失踪宣告制度というのがあるんです。 |
上柳 | 失踪宣告制度 … ちょっと、すごい言葉ですね。 |
白川 | 増山さんは、聞いたことあります? |
増山 | 聞いたことないです。 |
白川 | ないですか? |
上柳 | もうこの人は帰ってこない、と。法律的には亡くなった、ということでいいんですか? |
白川 | 要するに、生死が不明なんですよね。生きているのが分かれば、もちろんダメです。死んだのも分からない。 結局、死んだかどうかというのは、死体を確認しないと、手続きは何も進まないわけですから。その生死が不明な場合に、今言ったように、相続だとか婚姻関係では困った問題が起きるから、とにかく、手続きを先に進めるために、こういう用件があれば、死亡したものとして先に手続き進められるようにしましょうというのが、失踪宣告制度と言うんです。 大きく言いまして、2つあるんですね。普通の失踪宣告と、特別失踪宣告。 普通というのは、とにかく生死が7年間、一生懸命探しても分からない。 特別失踪というのは、戦地に臨んだ者で、戦争が終わった後も1年間分からない。あるいは、船舶が沈没して、生死が分からない。航空機が墜落した時も同じですよね ─ というような場合は、その事故、あるいは危難が終わってから1年間生死が分からないという場合、7年間待てというのは酷な場合がありますから、特別失踪の場合は1年間ということなんです。 今回、東北大震災で、津波で死亡が確認できない人もいますよね。そういう場合なんか特別失踪で、1年間でケリがつくかというと、僕は、船舶が沈没した時と書いてあるから、ちょっとこれは適用できるのかなぁと。そういう風にするかもしれませんが。 ただ、失踪宣告というのは、利害関係人の申し立てで家庭裁判所が行うんですが、これとは別に、死亡認定制度というのがあるんです。これは、裁判所がやるんじゃなくて ─ たぶんこっちの方で、東北大震災の被災者の方は処理されているんじゃないかと思いますが ─ 官公庁が捜索した、あるいは色々調査した結果、やっぱり死亡したものとみなされるというような場合は、官公庁の報告書に基づいて、戸籍から抹消する ─ 『死亡した』と。 |
上柳 | ご家族にとって、辛い決断ですね。 |
白川 | そうしないと、手続きも先に進まない。 例えば保険金なんかも、死んだということが確認されないと、保険金そのものも払ってもらえませんから。 そういうようなことで、基本的には、今どき戦地に臨む者なんて殆どいませんから、生死が7年間明らかでないときは家庭裁判所に申し立てて、『失踪宣告という制度がありますよ』ということだけ、今日は覚えてもらいたいと思うんですね。 さて、ご質問に返りますけど。たぶんお母様は、亡くなられているんだと思うんですね。お父様が亡くなって、ご長男とヒロミさんが生きておられる。次男の方が所在不明だという場合に、どういう風に分ければいいんでしょうかね。失踪宣告を受けないことには、先に進めません。もし失踪宣告が認められた場合どうなるかというと、次男の方に子供さんがいるケースがありますね。子供さんがいらっしゃれば、当然ご次男の方が生きていて、それで死んだとしても、そのお子様が相続者になりますから。だから、ご長男と次男の子供さんとヒロミさんの協議によって遺産相続すればいいと。 案件は難しくないんだけど、手続きが先に進まないということなんです。その手続きが先に進まないことには、何も出来ないと同じですから。そうすると、そういう時のために失踪宣告制度があります。例えば、配偶者が長い間いないというような場合も、同じような問題ですよね。だから、死亡したものとみなさないと、残された人が、その次のことが出来ませんから。死亡すれば、当然のことながら婚姻関係は終了することになりますから。 そこから先どうするかは、その人が決めることですから。分からないと、手続きが先に進まないわけですよ。そのための制度だと考えておいてください。 もちろん、その方が現実に生きていれば、財産を売るとか法律行為をすることは、もちろん可能ですから。 ただ、ある法律関係にしたら、この人は死んだものとみなすという制度なんだということは、忘れないようにしてください。 |
上柳 | そういうところも、法律というのはちゃんと目がいっているんだな、と。 |
白川 | 勝手に殺されても、困っちゃいますからね。 |
上柳 | お時間でございます。白川勝彦弁護士でした。どうも、ありがとうございました。 |
白川 | ありがとうございました。 |
増山 | ありがとうございました。 |
上柳昌彦氏・ 増山さやか氏 = ニッポン放送アナウンサー (文中敬称略) | 第69回 | TOP[t] | 第71回