マンション女性“行方”不明事件
08年05月28日
No.821
この永田町徒然草で、私は個別の刑事事件について書かないようにしてきた。そのひとつは最近では特異な事件が多すぎて書きはじめたらキリがないからである。もうひとつの理由は、犯罪捜査はきわめて複雑かつ困難であり、部外者がどうこう言うことはできないからである。私は現場の捜査官の苦労を知っているからである。
しかし、その原則を破って今日は今年4月18日東京都江東区のマンションで起こった女性行方不明事件について書く。この事件の被疑者が一昨日逮捕された。逮捕された被疑者は被害者が住んでいた部屋のひとつ隣に住む男性だった。被疑者は「行方不明になっている女性を刃物で刺して殺した。切断した遺体の一部をゴミとして捨てた」と供述しているという。
いろいろな事件が起きるので、私は一つひとつの事件報道をそんなに詳しく見ている訳ではない。しかし、私はこの事件が報道されたときから少し関心をもった。行方不明になった女性がマンションから連れ去られた映像が、防犯カメラに記録として残っていないことが問題にされたことであった。もうひとつは警察がこのマンションの全室に立ち入り室内を調べたと報じられていたからであった。ちょっと異常だなぁと感じた。
あるマンションで事件が起これば、マンションの全住民に事情を聴くことはそれ自体おかしなことではない。事件の参考になることを聴けることは十分にあり得る。だから現場の捜査官は大変なのである。これは職務質問というより聞込みというべきである。このように莫大な事情を収集する中から事件の真相が浮かび上がってくる。捜査とは根気の要るきわめて困難な作業なのである。
しかし、事件直後からこのマンションの全室を警察は調べたと報道されていた。そして立ち入った全室に異常はなかったと報道されていた。当然のことながら今回逮捕された被疑者の部屋にも立ち入り、全室の隅々まで調査した筈である。昨日の報道によれば、その時には異常なことが見つからなかったという。私はその辺の事情をもっと詳しく知りたいのである。
そもそもマンションの全部屋に立ち入り室内を調べたのは、一体どういう行為だったのだろうか。捜索令状に基づく家宅捜索だったとは思えない。職務質問ということも考えられるが、果たしてどうなのだろうか。職務質問ではなく、いわゆる事情調査の類ではないだろうか。だから基本的には住民の同意を得て行われたのであろう。
今日のテレビ報道によれば、警察は事件直後に被疑者の部屋の入り口(あるいは玄関?)で被疑者に質問をしたという。被疑者の部屋に入って室内を見せてもらったのは、事件発覚後の翌日の10時間後だったという報道があった。その時、トイレ・風呂場・天井などの全部をみたが不審なことは見付からなかったというのだ。この“空白の10時間”の間に遺体をバラバラにして水洗トイレで流したという報道もある。出勤するときに遺体の一部を近くのマンションのゴミ捨て場に捨てたという報道もある。
捜査当局は、この事件の犯人としてこのマンションの住民の可能性があると考えたので、全住民の部屋に立ち入り室内の全部を調べたのである。まず事件が起こったひとつ隣の住民である被疑者に質問し、そののち被疑者の部屋に立ち入り全室を調べた時に、不審な事実を発見できなかったことが私にはちょっと理解できない。また被疑者が遺体の一部を出勤する時に持って出かけ近くのマンションのゴミ捨て場に捨てた場合、もしこれを見逃したとしたら捜査に手落ちがあったと考えざるを得ない。
なぜこのような杜撰な捜査が行われたのか、いまはまずこれからの報道に注目してみたい。このような杜撰な捜査が結果として起こったのは、単なる偶然ではないような気がしてならない。現在の警察の体質が深く関係していると私には思われる。いずれにしても犯行の事実、捜査状況の実態がもう少し判明した時点で詳しく述べてみたいと思う。
それでは、また。