HOME | 主張 | 略歴 | 著書 | 永田町徒然草トップページ
「諸君!」2000年4月号
白川勝彦・俵孝太郎対談記事
「小渕連立政権の『いやな感じ』」
文芸春秋社発行 月刊オピニオン誌「諸君!」 4月号表紙(下)と |
|
前編
増長する不逞の輩にモノ申す 何者かが徒党を組んで我らに面会を強要。恥を知らぬ理念なき連立政権の腐臭、ここに極まる 俵 先日はお互い、面白い体験をしたものですな。 白川 そうですね。しかしあれは立派な事件ですよ。 俵 ええ。警察が介入し、きちんと被害申立をしているのに、一向に報道される気配はありませんがね。まずはわれわれがどのような体験をしたのか、かいつまんで説明すると、二月五日に兵庫県尼崎市で政談演説会がありまして、私と白川さんがともに講師として演壇に立ちました。この選挙区(兵庫八区)では有力候補の公明党の冬柴鐵三幹事長と、共産党候補者、そして元兵庫県議で前回自民党公認で出馬し惜敗した室井邦彦という人が争うことになっているのですが、私たちはその室井氏の新年の集いに招かれたんです。 白川 一時間ぐらいはそのままでしたね。 俵 で、ホテル側がともかく彼を説得して退去させた。すると今度は一階のフロント周辺に、こちらも二〇代後半とおぼしき男がたむろしているんです。ホテルの正面玄関には、車が二台、まるで入口を封鎖する格好で止まっている。フロント前の男にホテル側が事情を聞くと「人を待っている」と言って、いつまでも動かない。「余り長くなりますと……」とお引き取りを願うと、いったんは出ていくが、携帯電話で連絡を取り合い、別の男が現れる。車による入口の封鎖は続いたままです。 白川 その繰り返しでした。どうやらかなりの人数でローテーションを組んでいたようですね。 俵 要するに組織的にわれわれをホテルに缶詰にしたわけで、これがまた一時間ほど続いた。 白川 私たちだけじゃなかったんですね。 俵 今のところ犯人はわかりません。ただ、停車していた車のナンバーは控えてあるはずだし、兵庫県警にも報告して、捜査しているという話です。保利耕輔国家公安委員長の、警察庁から出向している秘書官にも事態を話し、ともかく事情を調べて大臣にも報告しておいてほしい、と要請しました。 オーストリア右翼との類似点 白川 私の方の後日談をお話ししておきますと、「白川は大阪府知事選で自民党が推薦した太田房江氏を応援せずに、自民党大阪府連が推薦した平岡龍人候補を応援したのではないか」という話が幹事長室や役員室で広まったようです。確かにこの日──室井さんの会の翌日が府知事選の投票日でした──大阪には立ち寄ったのですが、それは先ほどお話があったように、交通手段として大阪駅を乗り継ぎ場所として利用しただけ。室井さんの会でも大阪府知事選の件は触れていない。誰かがある意図を持って「兵庫の室井の会で、白川が平岡を応援した」といった話を流したとしか考えられないんですよ。 俵 私は室井氏の会でたしかに、大阪府知事選のことに触れました。「府知事選で、われわれの仲間の宗教団体は平岡氏を応援している」と述べました。でも、白川さんはまったく触れていない。そもそも立場があるからそんなことを言うはずもない。 白川 この件に限らず、いまの自自公連立内閣が成立してから奇妙な現象があちこちに散見されるようになりました。私ほどはっきりとではないにせよ、自自公連立に反対するような言辞を行う人に対する妙な誹謗・中傷が飛び交っている。選挙の際、党としては公認できない、といったことも聞かれはじめています。 俵 先日、オーストリアでは与党国民党と、ナチに同情的な発言で物議を醸した党首が率いる右翼政党の自民党が連立政権を発足させました。この政権がEUやアメリカから非難を浴びています。これは選挙の結果単独では政権を維持できない国民党が連立の相手として自由党をえらんだ、という適正な手続きを踏んだ政権であり、オーストリア国内の世論は連立政権を歓迎している。ある意味では内政問題としてはそれほど問題がない。しかし、対外的には大きな問題となっています。 白川 政権政党の一員として、国民の多数が今の内閣を好ましく思っていない、ということの意味も私は強く、重く受け止めなければならないと思っています。と同時に、なぜこのように自自公の支持率が落ち込んでしまったのかを分析する必要も強く感じています。 俵 逆にいえば、平成七年の参議院選挙ではその訴え方が弱かったために苦戦したんです。平成十年の参議院選挙も同じく訴え方が足りずに苦戦した。平成八年には自民党が党のプリンシプル(原則)に立ってものを言った。だから勝ったんです。 白川 ところが今度は、その公明党とこともあろうに連立を組んでしまった。つまり、自分で自分の首を締める、自ら蒔いた種をいま自ら刈り取らざるを得ない、といった局面に立ち至ってしまったのです。支持率が落ちるのも当然といえば当然です。 俵 レッセフェールの資本主義に立ってはいない、ということですね。 白川 ええ。逆に社会党はわれわれに「今の日本に社会主義政権を樹立させようとは毛頭思っていない」と意見を表明した。その点さえ確認すれば、あとは現実に起きる問題をその都度きちんと話し合えれば必ず解決できる。そこで、連立の絆について互いに自身を持つことができた。実は自社両党は、政権発足当初から、政治家レベルでは長年にわたる確執にケリをつけていたんです。 俵 ところが今度はかなり連立形成の事情が違う。 理念の一致なき連立の欺瞞 白川 それから、自自公連立政権が実際に行った政策も大きく影響していると分析しています。たとえば議員定数是正にしても、自民党と自由党の間では比例区五十議席削減という方向で一致していた。 俵 “自自”は、比例一回五十削減するだけではなく、その次も五十、その次も五十、そして最終的にはゼロにしましょう、ということでしたね。ところがそこに“公”が入って、五十がいつの間にか二十になった。そして二十減らしたら、次の三十は小選挙区の方で減らしましょうとなった。要するに小選挙区で三百議席、比例代表で二百議席にする。 白川 ちょっと小さくするだけの話ですね。 俵 格好は全然変えないで、ただ五十議席ダウンサイジングしましょう、というのは話のすり替えでしかない。 白川 残念ながら仰る通りです。私はどんな連立もいろんな面で若干の違和感があるというのはやむを得ないと思っています。しかし、そのとき大切なのは、そこに「理念」の一致があるか否かだと思うんです。表面的には違うものが多々あっても、個々の政策よりももっと上位にある「理念」での一致があれば、連立に伴う違和感は徐々に解消されていくのです。自社さ連立時には、先に述べたように、徹底した話し合いの上での「理念」の一致があった。それが今回はない。 俵 「理念」なき連立は野合でしかない、「理念」なき、という以上は「恥」を知らない輩が多すぎる。 白川 それから最近強く感じたのが、介護保険料の半年間徴収猶予。これについても批判が強く出ています。 俵 その問題も含めて、財政危機については、国民もしっかりわかっているんですよ。今の日本国は八十五兆円もの予算が組まれているが、税収は利子税などの臨時収入を入れても四十八兆円しかない。三十三兆円の国債を発行してなんとか賄っていく、という体制ですね。しかも何年たってもその三十兆が減る見通しが立たない。そんな中で今のような“景気対策という名の土建利権のばら蒔き”と“福祉という名の現金の掴み取り”がおおっぴらに行われている。この前者が実は経世会の本質であり、後者が創価学会-公明党が昔からやってきたお家芸なのですが、そこまで意識的にわかっていなくとも、このままだと日本はえらいことになるよ、という危機感が国民の間に浸透してきています。 白川 そういえば、もう一年近く前のことになりますが、地域振興券に対する反応もそうでした。あの時はまだ公明党は閣外でしたが、当初彼らは四兆円、そこまで行かなくとも二兆円くらい出してくれ、ということで始まっています。余りにも国民の評判が悪くて、最後には七千億円になった。その七千億円も国会対策費のような形で何とか党内の合意を見た。 俵 児童手当もおかしな動きになりましたね。財政当局と自民党内の批判によって、ある程度は圧縮されましたけれども、これも自自公の「理念」の不一致が明らかになった事例です。 白川 ええ。まず扶養手当については、昨年十二月の税調でその額が十万円引き上げられました。これは少子化・高齢化社会への対策、ということで特に若い人たちが中心となって、猛烈な要望を挙げて実現したんです。 俵 子どもを持っている親にとって一番お金がかかるのは、十七、八から二十二、三。つまり受験勉強から大学生の時ですよ。その時の扶養手当をなくしてしまい、十六まではとにかくばら蒔く。こんなことをしたら、財政も国民生活もメチャクチャになってしまいます。 自民党は“不自由非民主党” 白川 共通した「理念」を書いた連立内閣は本来、すぐにバラバラになってしまうはずです。しかし、今のところなんとか存続している。それはなぜか──大変残念ですが、政権内部がどうも恐怖政治的な雰囲気に支配されてしまっていることが大きく作用している、そんな気がしてならないのです。 俵 田中批判がいくらでもありましたからね。 白川 ええ、いろんな人がいろんなことを言いました。しかし今はそれが全くない。みんな「これはおかしい」と陰では言いながら、結局は動きにならない。これはやっぱり発言すると何かが待っている、と怯えてしまっているんです。 俵 残念ながら自由民主党が「不自由非民主党」になってしまった。昨年の東京都知事選のとき、石原慎太郎氏の子息がオウム真理教の準幹部だというデマ文書を配った自民党東京都連の幹部が起訴されました。堕ちれば堕ちるもんです。 白川 ええ。それに脅かしの手法も卑劣です。票で脅すんです。 俵 そもそもまず立候補しませんね。 白川 自由民主党はそんなことはない。だから除名などの処分を「脅し」として使うことはできない。そこで使うのが他の力、すなわち、創価学会票です。例えば何万票という学会票があるとして、「きみ、そんなことを言っているとこの票が丸ごと敵方に行くよ」と言う。それでみんな右往左往する。自由民主党、そして自由党もその脅しに翻弄されている。選挙はいつだ、いつだ、という喧噪の中で、党内がどんどんと澱んでいく。 太田大阪府知事と学会票 俵 ただ、そういった形で創価学会票をぶら下げて統制を図る、ということは、実は全くの逆効果なんですね。 白川 私は昨年の十二月一日からインターネットでWebサイト(ホームページ)を立ち上げて、その主たるテーマを「自自公連立を批判する」にしまして、意見を発表し続けています。そこには私に対するEメールや、サイトを見てくださる方がさまざまな意見を寄せて下さいますが、大阪府知事選後にはこんな意見が多かったですね。「大阪府知事選は公明党と共産党との戦いで、自民党、自由党、民主党はダシに使われただけである。結果、公明党が勝って喜んでるだけなのに、自民党の執行部などは自自公が信任されたんだ、勝利だと言って騒いでいる。これは空騒ぎである」と。 俵 では公明党支持層がどう動いたかといえば、朝日新聞では実に九十七パーセント、読売新聞の調査にいたって歯なんと九十九パーセントの人が一糸乱れず太田氏に投票しているわけです。共産党支持層の鰺坂氏への票の集中度も同じです。それぞれの支持者が見事な全体的統制のもとに投票行動をおこなった。 白川 大阪の自民党府連は、そういった投票行動についてある程度の予測ができていた。だからこそ、どうしても太田氏ではいやだ、という気持ちになったのでしょうね。 俵 それに砂が乾いてしまうと……。 白川 これまた崩れる。しかしそれが自由主義政党の組織なんです。この考えを基本に据えて政治活動を行っている人間から見ますと、一気にボーンと二万票が動く、というような考えにはまず馴染めない。そして、もしそれが味方につけば頼もしく思うし、もし敵方についたら大変だ、と思ってしまう。そんな経験がそもそもないのですから、こう考えるのも無理はありません。そんな考えは錯覚でしかないのに、その気持ちに引きずられてしまう。選挙の票分析に関してはシビアな目を持っているはずの自民党の政治家がこぞって、こういった組織票を目の当たりにすると冷静に判断できない。自自公が成立した、ならば公明党が参議院選挙で取った七百七十五万票、これが小選挙区に割り振られて、割り当て分は全部自分のところに来る、などと勘違いしてしまう。さらには「自公についての問題発言をすると、来るはずの票が全部敵に行ってしまう」というネガティブな錯覚に囚われてしまう。 俵 錯覚は錯覚なんですよ。考えてみると、有権者が今、一億人を超えました。それと引き比べて、公明党の今までの最高得票数が、七百七十五万票です。逆にいえば、公明党に投票しない人というのは九千二百二十五万いるんです。共産党に投票している人も八百万人ぐらいいるからそれを差し引いたって、自由主義的な意思を重んじる人間はまだ八千五百万人近くいるんですよ。彼らは拒否政党とも呼ばれる公明党や共産党には票を入れずに、そのときの感じによって自民党に行ったり民主党に行ったり、棄権したりする。そちらの票を、自らの政治行動の正当性・意義を十二分にアピールすることでいただく、それが筋です。 |
*諸君編集部、俵孝太郎氏掲載承諾済
白川勝彦OFFICE
〒100-8981
東京都千代田区永田町2-2-1-209 議員会館内
katsuhiko@liberal-shirakawa.net
PHONE 03-3508-7705