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FORUM21 2007年9月15日 通巻134号
閻魔帳
偉そうなことをいうな!
白川 勝彦 (元・衆議院議員)
先の参議院選挙では、「支持政党なし層」が圧倒的に民主党を支持した。また自民党支持層からも4分の1程度が民主党に投票した。これが敗因だったとマスコミや自民党は分析しているが、私の考えはちょっと違う。これは長い間自民党に所属し、自分の選挙も含めて選挙にいろいろな立場から携わってきた者としての肌感覚である。自民党は昭和30年以降、衆議院選挙で過半数を獲得してきた。それ故に政権党として君臨してきた。過半数を獲得できなかったのは、平成5年7月の衆議院選だけである。そのときに自民党は野党に転落せざるを得なかった。情け容赦はなかった。それが政治というものである。
自民党にはいつ如何なるときも自民党を支持するなどといった固定的な支持層や団体などないのである。それが実は自民党の弱点であると同時に強さとなったのである。自民党は「わが国における唯一の国民政党」とよくいってきた。55年体制のもとでは、皮肉にも金もあり組織力もある支持母体をもっていたのは野党であった社会党だったのである。自民党としては個々の候補者が国民の政治的利害や関心がどこにあるのか必死に模索せざるを得なかった。そのような努力の結果、自民党は衆議院で過半数の議席を獲得してきたのである。最初から自民党を支持してくれる人や集団が強固にあった訳ではない。50年以上政権党でありながら自民党の支持構造はこんなものなのである。これを情けないと見るか、それとも健全と見るかは人によって意見が分かれるであろう。しかし、このような現状が自民党の長期政権の下でも、独裁国家にならなかった大きな理由だったと私は考えている。
今回の参議院選挙における自民党の惨敗は、国民の多くが自民党を支持しなかったことに原因がある。公明党には何があっても公明党を支持するという創価学会という強い支持母体がそれでもある。しかし、自民党にはそんな“殊勝で律儀"(!?)な支持母体など最初からないのである。自民党の支持層から4分の1もの票が民主党に流れたという分析は最初から間違っているのだ。自民党にはいつ如何なることがあっても自民党を支持する団体などないと考えておくことが肝要なのである。これまで自民党政治の恩恵に浴していた業界や団体が、小泉改革により切り捨てられたという分析もあまり正しいとは思わない。ひとつの業界や団体を丸抱えで政治の恩恵に浴させることなど実際問題としてできる訳がない。
「支持政党なし層」の大半が反自民であったことは、「自民党支持層」も早晩反自民になることの予兆である。このことに思いを致さなかったら、自民党が盛り返すことなどできない。安倍首相は何をもって「私の基本的な主張は支持された」といっているのだろうか。政策実行内閣などと嘯いているが、いかなる政策を実行しようとしているのか。「戦後レジームからの脱却」を中心とする安倍首相の“政策"を国民は支持しなかったのである。馬鹿のひとつ覚えのように“改革、改革"といっているが、国民の支持を失った者がいくら“改革"を実行しようとしても本当の改革などできる筈がない。
8月27日安倍首相は党・内閣の改造をした。自民党的には党内の波乱要因を治めたつもりなのだろう。しかし、自民党にとっていちばん大切なのは、国民がこれをどう受け止めるという視点なのである。国民が支持しない改造をやってみたところで、自民党の支持が回復する筈がない。改造直後に『朝日新聞』が行った世論調査では、自民党の支持率25%に対して民主党の支持率は32%だった。自民党が再生する道は、安倍首相そのものを更迭し、新しい顔で新しい政策を実行していくしかなかったのである。自民党はこうしてこれまで危機を乗り越えてきた。それが自民党の経験則である。そのことを知らない自民党の国会議員はいない。しかし、自民党は安倍首相を“更迭"できなかった。
自らの危機を乗り越えることができない政党に、国家の危機を乗り越える力などない。あまり偉そうなことをいうなといいたい。このことは公明党にもいえることではないのか。