恐ろしい所信表明演説
07年01月27日
No.318
昨日は朝10時から人に会わなければならなかった。それから4件のスケジュールが入っていた。最後は私が政治活動を始めたときから熱心に応援してもらった支援者と久々に会った。浅草のさる料亭で食事をして、さらにクラブに飲みに行った。帰ってきたときは夜の11時を回っていた。古舘伊知郎の『報道ステーション』はすでに終っていた。ニュースは筑紫哲也の『ニュース23』でみた。安倍首相の所信表明演説の中に非常に気になる部分があった。
今朝、新聞がくるのを待って所信表明演説の全文で確かめてみた。新聞がくるのを待ち遠しく思ったのは久々のことである。また新聞に載っている所信表明演説なるものをまじめに読むのも久々というより初めてのような気もする。昨夜おおいに気になった部分は最初の方にあった。
「(前略) 私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい、と考えます。
そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築け上げてきた輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的な枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。我々が直面している様々な変化は、私が生まれ育った時代、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が三種の神器としもてはやされていた時代にはおよそ想像もつかなかったものばかりです。
今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。(後略)」
「日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい」、と安倍首相が考えていたとは驚いた。わが国の国民が素晴らしい国だと思い、日本に誇りを持てるようにすることがまず大切なことだ。多くの人々が以前に比べ将来に不安を持つようになった国が、どうして21世紀の国際社会の模範となれるのだろう。その原因を考えそれを取り除くことが、まず先決だろう。その原因の多くは、安倍首相にも共同責任がある小泉改革なるものに求められる。一利を興すは、一害を除くに如かず。
「先輩方が築け上げてきた輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません」だと! 戦後の日本の成功モデルは、確かに世界の奇跡と呼ばれてきた。しかし成功のモデルではあっても100%満足の成功なんてものはこの世にある筈がない。いろいろな問題もあった。それらを修正をしながらより素晴らしいものをつくることに、安倍首相の先輩にあたる私たちは努力してきたつもりである。私たちは自分たちのやったことが万全でないことをいつも自覚していた。だから自民党は謙虚でなければならないと戒めていた。それが少なくとも私が籍をおいていた宏池会(宮沢派その前身は鈴木派・大平派・前尾派・池田派)の伝統であった。
安倍首相が籍をおいていた清和会(森派その前身は三塚派・安倍派・福田派)の議員たちは、「日本がこのように豊かな国になったのは、自民党が政権をもっているからだ。自民党しか政権政党はない! 」と叫ぶ人が多かった。要するに政権党風を吹かせ、政権党を嵩(かさ)にきる議員なのである。小沢氏の脱党により野党となってしまった自民党からいちばん先に脱落していった議員は、いつも政権党を嵩にきていたこの派閥に多くいた。すなわち日本の成功にいちばん安住していたのは、安倍首相が所属していたこの派閥であった。
「行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的な枠組み」にいろいろと問題があることは事実である。しかし行政システムひとつをとってみても、その問題の根本原因は「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者でない」(憲法第15条第2項)という精神から離れていることに求められる。教育しかり。雇用しかり。国と地方の関係しかり。外交・安全保障しかり。もう一度憲法の基本に立ち返れば、問題の大半は憲法の理想や精神からはずれたことから生じているのである。正すべきは、問題のある「いまの現実」なのである。
安倍首相は、とかく問題の多いこの現実の原因を憲法に求めているのだ。そして問題の多いこの現実にあわせて憲法を改正しようとしている。これが安倍首相と自民党の憲法改正論者の基本スタンスである。彼らは昭和憲法(日本国憲法)を先入観をもたずに、素直にそして本気で勉強したことがあるのだろうか。私は彼らと長年付き合ってきたが、どうしてもそうは思えないのである。自主憲法制定がアプリオリにあるだけなのだ。この問題は『月刊マスコミ市民』に私が連載している「憲法改正問題講座」に譲ることにするが、憲法問題ひとつ捉えてもこのように安倍首相の考えはお粗末なのだ。いや、お粗末なのでなく、基本が間違っているのだ。こんな首相をいただく日本はおそろしい。
それでは、また。