賽は投げられた!(その2)
07年02月22日
No.344
昨日、「今日は新聞等もかなり書くであろうからそれらを読んで勉強していてほしい」と結んでおいた。昨晩家に帰って朝日新聞と読売新聞をみたところ、両紙ともまず一面でかなり大きく取り上げ、さらに政治面で詳しく書いていた。これらを読んだ方は多いであろう。それを読んだ方々は、果たしていわゆる「事務所費問題」に一体どのような論点があるのか理解できただろうか。また野党としてはどこを突いていけばいいのか分っただろうか。ここは意外に難しいのである。
この事務所費問題は、単なる政治もしくは政治倫理の問題なのか、それとも刑罰に触れる問題であるのかという点が、両紙を読んでいてもいまひとつはっきりしない。政治資金規正法第24条には次のような規定がある。「次の各号の一に該当する者(会社、政治団体その他の団体(以下この章において「団体」という。)にあつては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。第1号 第9条の規定に違反して会計帳簿を備えず、若しくはこれに虚偽の記入をした者(2号以下省略)」
上記の政治資金規正法第9条第1項は、「政治団体の会計責任者は、会計帳簿を備え、これに該当する政治団体に係る次に掲げる事項を記載しなければならない」とし、支出に関しては「すべての支出並びに支出を受けた者の氏名及び住所並びにその支出の目的、金額及び年月日」(同項2号)を記載しなければならないと定める。そして同条2項で「前項の会計帳簿の種類、様式及び記載要領は、総務省令で定める」としている。
「すべての支出」であるから領収書が必要であるのかどうかは別にして、経常経費についても会計帳簿につけなければならないのである。そうだとすると事務所費も会計帳簿にちゃんとつけなければならないことになる。永田町徒然草No.343で「膨らませようとすれば最初からどうにでもなる項目なのである」と書いたことは間違いで、そういうことをすると「虚偽の記入をした者」になり、3年以下の禁錮または50万円以下の罰金に処せられることになる。
小沢民主党代表が秘書の宿舎として3億数千万の不動産を購入した点については、当不当の問題はあるが会計帳簿にちゃんと記載されているのだから上記罰則にあたらないことは明らかである。辞任した佐田大臣や伊吹文部科学大臣や松岡農水大臣の事務所費がどのような事情があって問題視されているのか私は知らないが、仮にいい加減に記載されていたとしたら違法となってしまう。大臣の政治団体に違法な疑いがあったとしたら、その点を追及するのは野党としては当然だろうし、会計帳簿を公表するなどして違法性がないことを明らかにするのは国務大臣の責任であろう。
だから各大臣がいっているように公表義務がないのだから、良い子ぶって自分だけ公表するわけにはいかないという言い分は間違っている。一方家賃のかからない議員会館に事務所があるのに多額の事務所費が計上されているというのもおかしい。なぜならば事務所費は地代・家賃だけでないからである。なんでもかんでも公表せよというのは、政治活動の自由や秘密を侵すことになるというのも、また間違っている。脱法行為ではなく、かつ政治活動の自由や秘密が侵されることなく政治資金を使うことは、現行法で十分できるのである。智慧を働かせよといいたい。
なお、先に挙げた読売新聞一面に、「権利能力なき社団」の説明として、「組織の実態は各種の社団法人と同様であるにもかかわらず、法人格を持たない団体。宗教や学術を目的とする公益法人や株式会社などの営利法人と異なり、公益、営利のどちらも目的とせず、中間的な性格を持つ」とあるが、これはかなり誤解を与えかつ不十分な表現である。政治団体のように形式的な法人格(例えば社団法人とか宗教法人など)は持っていないが、その団体が法人格を持つ社団法人と同じような実態をもっている場合に、その団体に法人格を実質的に認める場合に使う言葉なのである。政治資金規正法に基づく届け出をし、かつ収支報告をしている政治団体は権利能力なき社団とされ、権利義務について独立した主体と認められる(実質的に法人格がある団体として扱われる)ことが多い。ただし、政治団体は政党を除き、政治団体名義で不動産や自動車などの登記や登録をすることは認められていない。
結論だけ要約しておこう。小沢氏の資金管理団体「陸山会」の不動産取得は、それが正確である限り政治資金規正法違反にはならない。伊吹文科大臣等の事務所費が会計帳簿に記載されていないものが計上されていたり、会計帳簿にいい加減な記載があったとしたらそれは政治資金規正法に違反する可能性がある。「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもって疑惑を解明し、その責任を明らかにするように努めなければならない」と政治倫理綱領にはある。小沢氏はみずから公表したのだ。小沢氏は批判は覚悟で、賽を投げたのだ。さあ、大臣(おとど)たち、あなた方は一体どうするのか?
それでは、また明日。