優れた政治家を殺した自公連立
07年01月07日
No.298
締め切りとなっていた原稿を書き上げて、昨晩の10時ころからまた温故の年賀状書きを始める。今日は腹を据えての徹夜である。これを書き終えるまで寝るつもりはない。ちょっと疲れたので休んで、これを書いている。昨日驚いたことがひとつあった。ホワイトカラー・エグゼンプション(white collar exemption、ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度)の問題である。いろいろ反対があるが厚生労働省としては断固これをやると発言した柳澤伯夫厚生労働大臣の表情と物言いである。彼はこんな男では決してなかったのだが……。
私は柳澤伯夫代議士とはたいへん親しかった。彼は私の1期後に当選し、同じ宏池会に属していた。もともと田中六助氏の秘書をしていた関係で、宮沢喜一氏と田中六助氏が宏池会の覇を争っていたころ彼は田中氏の陣営にいた。私は宏池会の次の会長は宮沢氏しかいないと思っていたので、そのころはあまり親しく付き合うことはなかった。しかし田中六助氏が亡くなった後この問題はなくなったので親しく付き合うようになった。彼は決してとっつきがいいタイプではない。しかし、彼の知性は抜群だった。国会議員の中で誰がいちばん良く勉強していて政策に明るい政治家かといわれた場合、私は迷うことなく彼を筆頭に挙げていた。
彼はまた大変な苦労人だった。家が貧しかったために、高校を卒業した後就職をした。働きながら勉強して東大法学部に合格した。とにかくその苦労は尋常ではなかったのだと記憶している。当選後も選挙もあまり強くなく苦労していた。小選挙区導入後は静岡3区から立候補することになり、順調に当選を重ねている。苦労人だけに政策に明るいだけではなく、理論に裏打ちされた人間味のある政策や考え方を大切にする政治家であった。私はここに惚れたのだ。だから私は何をするにも彼に相談し意見を求めていた。
その柳澤大臣がホワイトカラー・エグゼンプションを断固やるというのだから驚いた。ホワイトカラー労働者といっても年収400万円くらいから対象になり、いくら働いても残業代も出ないことになるのである。聞き慣れない英語を使っての体のいい人件費削減そのものである。彼は大蔵官僚出身であるから、厚生労働省の役人にのせられてこんなことをいう筈がない。何かが彼を変えたのだ。
「衆議院の3分の2を超える化け物のような自公連立政権がいまわが国を支配している。そして戦後60年余の伝統的な政治的価値観からいえばハッキリいって悪政といえるひどい政治をやっている。暴政といってもいい局面も数多くある。長い間一党で政権を担ってきた自民党は、それなりに国民世論を反映せざるを得ないメカニズムをその中にもっていた。それは件の巻頭言で書いたとおりである(永田町徒然草No.291参照)。しかし、そんな自民党はいまや存在しない。公明党との連立によって自民党は完全に変質してしまった。そこにわが国の政治がおかしくなった原因があるのである。」
これは昨日書いた原稿の中にある一節である。柳澤大臣の昨日の表情や物言いの原因はどうしてもこれしか考えられない。自公連立は民衆の側に立っていたきわめて優れた政治家を殺してしまったようである。実に罪作りな連立である。温故の年賀状は彼には出さないことにした。心が変わってしまった人間はかつて私が心を許した友人とはいえないからである。
それでは、また。