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「象徴としての御公務」のあり方を、国民に問いかけるお気持ちの表白

16年08月12日

No.1860

今年から8月11日は、「山の日」として、国民の祝日となった。「海の日」が祝日となったのは、平成8年だった。こちらは、ハッピーマンデー制度で7月第3月曜日となったが、山の日は今のところ、8月11日と決まっている。なぜ8月11日なのかは、確たる理由がある訳ではないらしい。旧盆のお墓参りの日は8月13日なので、お盆の帰省を促すような休日となりそうだ。現に、以前のお盆の帰省ラッシュのような交通状態となっている。

今年も私は、お墓参りのために郷里に帰る。今年は8月13日が土曜日なので、13日の夕方にお墓参りをする予定である。もちろん、その前に姉たちとお墓掃除をする。8月13日の夕方、絵柄のある提灯を灯して、家族揃ってお墓参りをする光景は、私の故郷の原風景のひとつである。今年は、そうしたお墓参りができる。

8月8日午後3時、天皇陛下から、お気持ちの表白がなされた。私は、これを厳粛に拝聴した。天皇陛下がいちばん国民に理解して欲しいと望まれたのは、「日本国および日本国民統合の象徴としての天皇」のあり方であり、諸般の事情でその役割が思うように果たせなくなった場合、天皇の自らの意思によって退位できないだろうか、というものであったと、私は拝聴した。

天皇陛下から国民に投げ掛けられたこの問題に正しく対処するためには、まず憲法を理解しなければならない。そんなに長くないので、天皇に関する憲法の規定全文を引用する。読者諸氏は、まず熟読して貰いたい。


日本国憲法   第一章        天皇

第一条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
     2項
天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第五条
皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
     2項
天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
国会を召集すること。
衆議院を解散すること。
国会議員の総選挙の施行を公示すること。
国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
栄典を授与すること。
批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
外国の大使及び公使を接受すること。
儀式を行ふこと。
第八条
皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

憲法で「国事に関する行為」と言われているもの(国事行為といわれる)は、第7条の各号に規定されている行為である。また、第6条で規定されている内閣総理大臣と最高裁判所長官の任命も、国事行為である。しかし、昭和天皇も今上天皇も、国事行為だけでなく、様々な公的行為を行ってきた。その御公務が、今上天皇になってから特に多くなってきた。

そうした公的行為を、天皇陛下は、「日本国および日本国民統合の象徴としての行為」(以下、私は“象徴としての御公務”という)であり、これも国事行為と並んで、天皇の重要な責務であるとお考えになられているのである。そして、多くの国民は、天皇陛下のそうした御公務を高く評価しているのである。

国事行為の多くは、法的な行為である。しかし、象徴としての御公務は、事実行為である。多くの時間と、多大な御足労をもって行われるものである。しかし、多くの国民は、そのようなものだからこそ、感激し、慰められ、癒されてきたのである。国事行為ならば、摂政や第4条の委任で、正直いってあまり支障があるとは、私は思わないが、象徴としての御公務は、そうはいかないのである。それは、天皇陛下御自らの御行為に、価値があるからである

天皇陛下が今回のようなお気持ちを表白されたのにあたっては、私たち国民に対してなされたことに思いを致さなければならない。天皇陛下は、憲法第1条を、誰よりも深くかつ重くお考えになっておられるのである。主権者である国民から、象徴としての御公務が十分かつ円滑に行われるように、是非、理解し協力して欲しいと、ご丁重なる表白をなされたのである。

憲法第1条の「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」を御身を挺して実践してこられたのは、昭和天皇であり、今上天皇であった。その地位に就いたその時から、象徴としての天皇のあり方を御自ら模索されて、かつ全身全霊をもって象徴としての御公務を行ってこられたのは、今上天皇であった

法律を学んでいる時、「象徴天皇という概念」は、私にはあまり理解できないところがあった。しかし、多くの国民は、現在の天皇陛下の御存在と御行動が「象徴天皇」だと具体的に理解しているのではないだろうか。いずれにせよ、どのような天皇制が理想であるかは、憲法1条に定められているように、主権者である国民の総意が決めるのだ。安倍首相でもなければ、どういう基準で選ばれるのは分からない有識者などが決めることでもない。

国民の総意といっても、具体的には各政党が智慧(ちえ)を出し合って、形作るしかない。各政党の智慧が問われる、試金石である。自公“合体”政権は、衆参共に3分の2を持っているからといって、また力付くで決めようとするかもしれない。しかし、憲法第1条に関することであり、国民の圧倒的尊敬と支持を受けている天皇のあり方に関することであるから、少数意見を含めて、まさに“総意”を作らなければならない。これは、憲法の内実をつくる仕事なのである。

それでは、また。

  • 16年08月12日 03時26分AM 掲載
  • 分類: 2.国内政治

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